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猫、この不思議で美しい生き物

小さなモネ ― アイリス・グレース ― 自閉症の少女と子猫の奇跡
小さなモネ ― アイリス・グレース ― 自閉症の少女と子猫の奇跡
吉井 智津


――悪いことだって経験しておかないと。いいことと同じくらい大事なことだからね。

この本の表紙を見て、一目で惹かれた。
まるで『ナルニア国物語』のルーシーのような美しい少女に子猫が寄り添い眠っている。
表紙をめくると本当にルーシーそのものの幼い少女が庭園に佇む写真があり、心和まされる。
その傍らにはあの子猫が静かに寄り添っている。
眺めているだけで心穏やかになる、優しい風景だ。
まるで、この少女が描く絵のように。
この本は僅か三歳にしてオークションで830ポンドの値をつけた絵を描いたアイリス・グレースという自閉症の少女の成長を母親である著者が綴ったものである。


アイリスは2009年に産まれたので現在も成長過程なのだが、その成長を支える著者と夫の苦悩は計り知れないものがある。
だが、日々成長していく娘の姿をありのままに受け止め、一人の女の子が自らの力で描き出す美しい世界を見守っていく二人の姿にとても勇気を与えられる。
本を読んでいて意外だったのは、自閉症という障害に対してアメリカやイギリスといった国は研究も進んでおりケアやサポートも充実しているのだろうという自分の考えが誤りだったということである。
本に綴られた内容は日本での所謂「遅れている」という言われる対応と然程変わりがないように感じた。アイリスの診断結果を告げる医師もあくまでも著者の眼差しから見た姿ではあるが、あまりに冷態だし、アイリスを受け入れる学校の対応も事務的だったり、融通が効かなかったりする。
だが、それでも夫婦は試行錯誤しながらも家族の暖かい手助けに支えられて、アイリスを理解し、愛情いっぱいに育てていく。
本を読んでいてアイリスにとても共感できたのは「世の中がうるさすぎる」ということだ。アイリスは自閉症の特徴のひとつとして周囲の刺激に対して過敏である。刺激を受け流すことができないので周囲の雑音がそのまま自分の中に流れ込んでくる。これでは精神がパニックを起こしても当たり前である。
逆にアイリスは自宅の庭(本当に素敵な庭なんです。整えられてはいないけど、自然で)で過ごしたり、本を読んだり、絵を描いたりすることを好む。
アイリスの見ている世界はアイリスの描く絵に反映されていくのだが、その絵を見ていると「あぁ、彼女の見ている世界はこんなに美しいんだなあ」と素直に感動してしまう。
自然の持つ、過剰でもなければ、欠けているものもない、満たされた美しさに改めて気づかされた。
アイリスの良き相棒となる猫は中盤から登場する。
アイリスの心身の成長に動物のサポートを得たいと考えた著者はまず犬を飼い始めるが全くうまくいかない。
マイペースに過ごしたいアイリスには犬の愛情表現は刺激が強すぎるのだ。
諦めずにフェイスブックで意見を募集したところ「メインクーン」という猫をフォロワーから薦められる。
気ままが魅力な猫らしからぬ「飼い主に忠実」という性質を持つメインクーンの仔猫・トゥーラ(アフリカのズールー語で『平和』という意味)はアイリスと出会ったその日から打ち解け、いつも一緒に過ごすようになる。
まるで、守護天使のように。
トゥーラは風呂の刺激に耐えられず嫌がるアイリスと一緒に風呂にも入る。メインクーンという品種は水を嫌がらないのだ(なので船にも平気で乗ってしまう)。アイリスが眠れなくて泣いていると玩具をくわえてやってきて、気を紛らわせ、やがて一緒に眠る。絵を描く時も勿論一緒だ。
アイリスはトゥーラを「ねこ」と呼び、二人はかけがえのない運命の相手になっていく。
読んでいると大げさなものではないけれど二人の間には確かな絆があって、そこには静謐な幸福があって、外から見ているものにはとても眩しい。
猫が人間に与えてくれる愛情というものは「ただ傍にいること」であり、それは神が人に与える愛にも似て、究極のものである。
これは『ボブという名のストリートキャット』を読んだ時にも感じたことだが、やはり、猫はみんな同じ能力を持っているのだろうか。
声高に叫ぶものではないけれど、その愛情は内向的なものにはより沁みるもののようである。
終盤、アイリスに慣れない環境で過ごさねばならないという試練が訪れる。その試練に向けて家族は受け入れる練習を行い、アイリスはその練習を乗り越え、またひとつ成長する。

――その通りだと思った。前に進もうとすれば困難はつきものだ。それに、私たちが手助けしてやれるなら、そうした経験も長い目で見れば本人の役に立つ経験になるだろう。でも、本音を言えば、もうしばらくはそっとしておいてやりたい。馬を扱う仕事をしていたころ、馬たちに休憩が必要になれば、わたしにもそれがわかった。それはギブ・アンド・テイクのゲームであり、アイリスとの関係も同じように思えるのだ。

著者が兄に相談した際、兄は冒頭の言葉をアドバイスとして著者に授ける。
だが、著者はアイリスに多くを求めすぎず、アイリスのペースでの成長を見守っていこうとする。
兄の言葉も著者の言葉もどちらも読んでいて心に残った。
人との関係に対しても自分自身に対しても、これはいえることなのではないだろうか。

  • 2017.09.03 Sunday
  • 12:56

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